日本代购-ラベルの特徴と真贋鑑定 セレステ・ファロットの楽器のラベル(製作ラベル)は、当時の多くのイタリア製作家同様に印刷された紙ラベルです。その一般的な表記内容は、Farotto Celeste(姓・名が逆順で印刷)。ファロットの場合、出生名は「Farotto」ですが、一部ラベルでは綴りをラテン風に「Farotti」と表記しています。1900年前後によりイタリア的な発音表記に改めたとも言われます。 出生地: da S. Germano di Casale(カザーレ・モンフェッラートのサン・ジェルマーノ村出身)。初期のラベルには出身地が記されています。受賞歴(一部の年代のラベル):「Medaglia d’oro Milano 1906, Torino 1911」等と博覧会の受賞記録を誇らしげに併記したラベルもあります。ただし全てのラベルにあるわけではなく、製作年によって記載有無があります。 製作地と年号:「nell’anno」は省略されl’annoとも表記されます。年号は手書きではなく活字であらかじめ「19__」まで印刷され、下2桁だけ手書きで書き込まれた例もあります。 鑑定書はありません。真贋の保証はできません。 この1936年製ヴァイオリンの背景(真作と工房継承) この年になると製作者本人のセレステ・ファロットは既に故人(1928年没)であり、実際の製作は工房を継いだ甥のチェレスティーノ・ファロットによるものと考えられます。チェレスティーノは少年期から伯父の工房で技術を学び、1920年代には伯父と共に製作に携わっていました。ファロット伯父存命中から、チェレスティーノが製作した楽器が伯父名義のラベルで出されたケースも多く、その作風は当初伯父の作品とほとんど見分けがつかないほどでした。1928年に伯父が亡くなった後、チェレスティーノは自らの名前で作品を作り始める一方、工房ブランドとして伯父名「Celeste Farotto」のラベルも引き続き使用しました。1930年代の製品には年代的に伯父は関与していませんが、「Cav. Uff. Celeste Farotto」のラベルが貼られていると、一見するとセレステ本人が1936年に作ったように思われます。しかし実際にはチェレスティーノ(または工房スタッフ)が伯父譲りの様式で製作した楽器であり、いわば「ファロット工房製」の一本です。このようなケースは当時珍しくなく、ガルネリ一族やストラディバリ一門でも弟子・息子が先代名義の仕事を続ける例が見られます。 チェレスティーノは伯父の没後、徐々に自身の個性を作品に反映させていきました。1930年代のチェレスティーノ製作楽器では、例えばパーフリングが伯父の頃より太めになり、エッジの処理もややソフトになるなど、細部に独自の傾向が現れ始めます。もっとも基本的なモデルやニスの色調などは伯父譲りで、引き続きプレッセンダやストラド型を基調に製作しています。1936年のヴァイオリンも、外観・構造ともにファロット流儀に則っているはずですが、上述のような細微な違いがあるかもしれません。チェレスティーノは戦後も製作を続け、1960年代になると彼自身が騎士称号を得たこともあり(もしくは伯父の称号を冠して)、一部に自分の名「Celestino Farotto」を明記したラベルや、変則的に「伯父セレステの弟子チェレスティーノが作りました(allievo dello zio Celeste)」と記したラベルも使っています。しかし商業的には伯父の名の方が有名だったためか、1970年代近くまで「Celeste Farotto」名義のラベルが併用されました。このように、1936年製の楽器は形式上「セレステ・ファロット作」ですが、実態は甥チェレスティーノによる工房作品であり、現代の鑑定書でも「Celestino Farotto (作), labeled Celeste Farotto, 1936」などと注記されることが一般的です。価値の面では、こうした工房制作の楽器も当時のイタリアの高水準な技術で作られており、演奏・コレクション双方で高く評価されています。 評価と市場での位置づけ(演奏家・オークション等) セレステ・ファロットとその工房の楽器は、20世紀初頭から現在に至るまで一貫して高い評価を得ています。音色の素晴らしさからプロの演奏家にも愛用者が多く、例えばイタリアやヨーロッパのオーケストラ団員、室内楽奏者の間でファロットのヴァイオリンやチェロが用いられてきました。19世紀末から20世紀前半にかけて、ストラディバリやグァルネリが手の届かなくなった演奏家たちは、音量豊かで力強い近代イタリア製の名品に目を向けました。ファロットの楽器はそうした「代替」以上の価値を示し、一流ソリストに匹敵する性能を持つことで聴衆を魅了したと伝えられます。現在でも、録音やコンクールでファロットの楽器が使われる例があり、その豊かな響きは高い評価を受けています。 また、収集・投資の対象としてもファロット一門の作品は人気があります。特にセレステ・ファロット本人が製作・署名した初期の作品やチェロ・ヴィオラなどは希少価値が高く、オークションでも高額取引されています。セレステ・ファロットのチェロのオークション最高額は2017年3月に記録された約10万5千ドル(当時約1100万円)で、近年も名門オークション会社で彼の楽器が多数出品されています。ヴァイオリンも状態や製作年によって価格は幅がありますが、一般に数万ドル台(数百万円~数千万円)の値がつきます。例えばロンドンのディーラーが扱った1902年製ファロット・ヴァイオリンは5万ポンド以上の価格帯で提示されていました。チェレスティーノ作品も評価が高く、2017年にはチェロが84,000ドルで落札された記録があります。ただし、チェレスティーノ名義の後年の作品(1960年代など)は比較的安価で取引されることもあり、例えば1968年製作のチェレスティーノ作ヴィオラは2010年の競売で見積1万~1万5千ドル程度となっています。このように、年代や製作者名義によって市場評価に差異はあるものの、ファロット家の楽器全般が良好な投資対象と見なされているのは確かです。 博物館やコレクションに関して言えば、ストラディバリなどと比べて公的機関に所蔵されている例は多くありません。しかし、イタリア現代製作の歴史の中でファロットは重要な位置を占めるため、楽器博物館や展示会で取り上げられることがあります。1987年のクレモナ展などでは20世紀イタリアの名工として彼の作品が紹介されましたし、専門誌『The Strad』(2010年4月号)ではファロットの名品チェロが詳しく解説されています。現在残るファロットの楽器は多くが個人コレクションや演奏家の手にあり、使用され続けていますが、将来的にはその一部が博物館のガラスケースに収められる日も来るかもしれません。 まとめると、セレステ・ファロットはモダン・イタリアンの名工として確固たる評価を受けており、その1936年製ヴァイオリンは工房の後継者により製作されたものとはいえ、歴史的・技術的価値の高い逸品です。その真贋や来歴を十分に検証した上で、大切に保存・演奏されていくことでしょう。 製作家セレステ・ファロットの生涯・経歴 セレステ・ファロット(Celeste Farotto, 1864 - 1928)は、イタリア・ピエモンテ州モンフェッラート地方の農村(カザーレ・モンフェッラート近郊サン・ジェルマーノ)に生まれた弦楽器製作者です。もともと家具職人(木工職人)として働いていましたが、31歳頃(1895年前後)から趣味でヴァイオリン製作を始めました。地元の音楽家たちに自作楽器を見せたところ才能を認められ、1898年にミラノへ移って製作に専念するよう勧められます。ミラノでは短期間レアンドロ・ビザッキ(当時著名な工房主)の下で修業した可能性もありますが、ほぼ独学で腕を磨き、1900年前後にはミラノ市内に自身の工房を開業しました。ファロットはイタリアの往年の名器に深い造詣を持ち、独自に古い名器の構造や音響を研究することで短期間で腕前を向上させています。その才能はすぐに評判となり、各地の品評会で多数の賞を受賞しました。例えば1909年ミラノ, 1911年トリノ, 1915年サンフランシスコ, 1917年ローマなど国内外の博覧会で金賞に輝いています。これらの功績からイタリア政府よりカヴァリエーレ・ウッフィチャーレ (Cavaliere Ufficiale)」の騎士称号を贈られたとも伝えられました。1920年代半ばに山岳旅行中の事故や健康悪化により製作第一線から退いた後は、甥のチェレスティーノに工房を任せ、1928年に64歳で亡くなっています。 工房と製作活動の発展 ファロットのミラノ工房は、創設から程なく修復・販売・新作製作の拠点として大成功を収めました。彼は当時の名器の修復を多数手がけ、その経験を通じて古典的なスタイルへの審美眼を磨いていきました。需要の拡大に伴い、1906年には弟であるサルヴァトーレ・ファロットをピエモンテから呼び寄せて製作の下準備(荒削り作業など)を手伝わせています。さらに第一次大戦後, 工房には甥のチェレスティーノ・ファロット(Celestino Farotto, 1905–1988)や米国出身の製作家アルフレード・ラニーニ(Alfredo Lanini)も加わり、一家総出で相当数の楽器を製作しました。ファロット自身は1925年頃まで精力的に活動しましたが、健康上の理由で引退した後は甥のチェレスティーノが実質的に工房を切り盛りし、師の死後も伝統を受け継いでいきます。こうしてミラノのファロット工房は20世紀前半にかけて多くの弦楽器を世に送り出しました。 製作スタイルと技法の特徴 セレステ・ファロットの製作スタイルは、故郷ピエモンテの流れを汲むモデルとミラノ派の要素が融合したものでした。彼が理想としたのは19世紀トリノ派の巨匠G.F.プレッセンダやジュゼッペ・ロッカのモデルで、それらを独自に解釈したパーソナルモデルも好んで製作しています。一方で、依頼に応じてストラディバリ、グァルネリ系、グァダニーニ、18世紀ミラノ派など様々な名器のコピーも手掛けました。ファロットは古いヴァイオリンの修理経験から木材の響きを知り尽くしており、良質で乾燥した古材を板やブロック材(コーナーブロックやライニング)に敢えて使うこともありました。場合によっては古いヴァイオリンの部品(例えばスクロール)を再加工して再利用するなど、音響と外観の双方で「アンティークらしさ」を追求する工夫も行っています。ニスは柔軟性のあるオイルニスで、下地に黄金色系のグラウンドを塗り、その上に黄褐色~赤褐色系の透明なニスを重ねた仕上げです。ファロット本人の新作は赤みが強いオレンジ~赤褐色のニスが多いと言われます。光沢と色味に深みがあり、経年で風格を増す美しいニスですが、比較的柔らかいため細かな亀裂(クラックル)が生じる例もあります。一方、製作者自身が古色仕上げ(アンティーク風)を施した楽器では、ニス表面に擦り減りやキズ、汚れを人工的につけて何十年も弾き込まれた古典器のような風合いを再現しています。作品によっては控えめなアンティーク仕上げのものもあれば、非常に凝ったエイジングで一見して本物の18~19世紀の名器と見紛うような巧妙なコピーも存在します。このように、ファロットは古典的なクレモナ様式の美と自身の創意を融合させ、音響的にも現代の大ホールで独奏に耐えるパワフルな楽器を生み出しました。鑑定書はありません。真贋の保証はできません。ラベルドということでご理解お願いします。